その1 その2 その3 その4 その5 その6 その7
だんだん大阪についての記憶がうすれていく中、残りの12.195kmについてちゃちゃっと書いていきます。
30kmを過ぎた後も、1キロ5分10~15秒とペースは落ちません。
「これは3時間45分切りも夢ではない」という雑念が頭をよぎりますが、そんなことよりも集中だ!集中。
北海道マラソンだと、この辺りからダレてくるころですが、沿道を埋め尽くす応援の方々からパワーをいただきます。
しかし、私も仙人ではない。
霞だけを食って生きていけるほど、タフではない。
「霞を食べることができないなら、ケーキをお食べ」とマリー・アントワネットも言っていたことだし。
いかん、頭がもうろうとしているのか、自分でも何を書いているのか意味不明だ。
わかりやすく言うと、30km過ぎのテーマは
腹減った
ということである。
パワージェルは残り3本。
35km地点と、40km地点と、予備用にと持っていたのだが、ここで予備用のパワージェルを炸裂させるべきか?
しかし、その必要はなかった。
大阪マラソン名物、32.5km地点の「まいどエイド」が腹をすかせた我々を待っていたのだった。
マラソン大会の給食と言えば、バナナが定番だが、「まいどエイド」では「いなりずし」「たこ焼き」「まんじゅう」「おにぎり」などなどバラエティーに富んでいた。
しかし、「らっきょう」と「たくわん」は別にいらなかったような気もする。
単に私の好みの問題だが。
そんなわけで炭水化物を摂るべく、まずは「いなりずし」をゲット。
う、うまい、五臓六腑に栄養が染み渡り、一粒800mだ。
続いて、「冷やしパイナップル」をゲット。
う、うまい。
今まで生きてきた中で、もっともうまいパイナップルだ。
走って熱くなった体に、冷たいパイナップルが染み渡り、サロベツの冷気が送られてくるようだ。
つーか、サロベツでパイナップルなんて取れんし、もっとマシな例えはないのか?
しかし、走りながら食べていたので、パイナップルを食べているうちに、たこ焼きコーナーは過ぎてしまった。
ああ、密かに「大阪マラソンでたこ焼きを食べる」ということを楽しみにしていたのに……。
かと言って、一度前に進めた歩みを戻してまでも、たこ焼きを食べようとは思わない。
たこ焼きなんて、前の日にEXPOでマズイのを食ったんだから、それでいいじゃないか。
我がたこ焼き人生に悔いなしだ。
でもって、たこ焼きコーナーを過ぎて、パイナップルを完食したところで、「おにぎり」が現れたので、別におにぎりが食いたいわけではなかったがゲット。
しまった、さっきの「いなりずし」とで、米と米がかぶってしまった。
「あー、やってもーた、やってもーた。ワシ、別に米が食いたいわけじゃないんだ」
などと思いながら、おにぎり片手に走っているうちに、「まいどエイド」は過ぎてしまった。
「ああ、まんじゅうとかようかんとか、甘いお菓子が食べたかったのに」
しかし、おにぎりはおにぎりで重量感があって、一個食ったら十分腹いっぱいになった。
さようなら、そしてありがとう「まいどエイド」。
腹がいっぱいになったところで、ズンドコ前に進みます。
コースはずーっと平坦で走りやすく、気温が上がって日差しが少しキツイが、それでも湿度は50%ぐらいと低いので、道マラに比べたら楽勝です。
給水所では、スポドリを飲んで、そっから水を飲んで、更に水を体にかけてと、贅沢に3つのコップを使わせてもらいましたが、なんか後ろの方では水が足りなくなったらしく、ちょっと贅沢しすぎたかと反省。
35km地点通過。
パワージェル1本投入。
35km通過タイムは3:07:08(ラップタイムは26:22)。
ちょっとペースは落ちたけど、まだ、1キロ5分20秒以内で走れている。
残り約7kmで、目標タイムを3時間45分とすると、どのくらいのペースで走ればいいのか?
そんなもん知らんがや。
ええか、そんなこと考えずに、とにかく一歩でも足を前に出して、思いっきり腕を振るんや!
結果は後からついてくる。
ごちゃごちゃ考えずに、はよ走れい!
と、今まで存在したことのなかった、私の脳みその中の「体育会系鬼コーチ」が何故か関西弁で激を飛ばした。
しかし、この手の「体育会系鬼コーチ」を苦手としている私は、この激ですっかり萎縮しまい、ついにペースが1キロ5分20秒~30秒に落ちてくる。
いかん、ここが限界か?
そう言えば、私は普段の練習はせいぜい長くても30kmで、しかもペースも1キロ5分30秒ぐらいと、今回の大阪マラソンよりも遅いペースでしか走っていない。
こんな速いペースで35kmを過ぎたことはなかったのだ。
そうさ、「練習でできなかったことが本番でできる分けないのさ」と、ついに「言い訳モード」に入りました。
この時点で、自分に敗北してしまいましたね。
マラソンは自分に負けた段階で、おしまいです。
しかし、3時間45分切りは難しくても、まだ自己ベストである3時間48分20秒は切れる勢いです。
とにかくこれ以上ペースを落とさないように、少しでも心の折れ幅を最小限にしようじゃないか。
沿道を見ると、「4年連続で落選しました」という応援ボードを持っている人もいる。
そうだ、この大会に出たくても出れなかった人が何万人もいるのだ。
「こんな奴を出すぐらいなら、私を出せ!」と言われないように、真剣に走らなければならない。
ついに、今回のコースの難所である、37km地点「南港大橋」にさしかかってきた。
ずーっと平坦だったコースが壁のように見える。
しかし、こんなものせいぜい5%ぐらいだ。
美瑛ハーフマラソンの「心臓破りの坂」を思い出せ!
あれに比べたら、距離も短いし大したことがない。
ここで100人ぐらい、一気に抜かしたらんか!
などと、気合だけは入れてみたが、体は正直だ。
スピードは上がらない。
視線はだんだん下を向いていく。
つらいのはワシだけじゃない、みんなも同条件だ!と思いつつも、抜くランナーより抜かれるランナーが増えつつあり、キー、しんどい。
この橋で、コブクロが歌う、今回の大会のテーマソング「42.195km」が流れていたらしいが、そんなものは全く聞こえず。
かなりの極限状態だったのかもしれない。
上った橋を一気に下ります。
しかし、橋を下ったら、一気に応援が少なくなり、ああ、私の心はボキボキボキ。
このしんどいとこで、応援がなくなっていくなんてどういうことやねん。
それでも、「疲れたのは脳の錯覚」とか「苦しいときこそ笑顔」などと、普段だったら何とも思わない応援ボードの文字が、私の極限状態の心に突き刺さる。
せや、せや。
つらいのはみな錯覚や。
最後は笑ってゴールするのだ!
39km地点。
応援は少ないが、ここは私の得意の妄想力で
「ここは大阪南港じゃない。北海道マラソンの北大構内だ!こっから北大のメインストリートを走ろうじゃないか」
と、無理矢理テンションを高めます。
そんなわけで、私の頭の中では北大メインストリートの40km地点到達。
アミノバイタルPRO1本とパワージェル1本投入。
これで残りの2.195km、渾身の力で走るのだ。
40km地点通過タイム3:34:15(ラップタイム27:07)。
5kmのラップタイムは27分台に落ちたが、それでも道マラより2分以上速い。
35km以降をキロ5分30秒以内にまとめたのは初めてだ。
ようやった俺!
などと、自分を褒めるのはゴールしてからにしよう。
まだ2.195kmが残っている。
閑散としていた沿道にも、また人だかりが戻ってきた。
「くまモーン」コールが起こる。
まだ、レースを振り返る時ではない。
前だけ向いていこうじゃないか。
目標にしていた3時間45分切りは絶望的だ。
参加申し込み時に、予想タイム「3時間45分」と勢いで書いちゃったけど、ウソついたよ、ゴメンよ。
でも、これが現時点での精一杯。
とにかく、一人でも多くの人を抜かして、ゴールに飛び込もう。
通算8回目のフルマラソン。
見知らぬ地でのマラソンは、また格別のものがあった。
完全アウェイ状態にも関わらず、多くの声援をいただけて、本当に夢のような42.195kmだったよ。
ああ、このままゴールするのがもったいない。
けど、ゴールしないと終わらないので、ズドンとゴール。
ゴール後、振り向いて、コースに深く一礼などという、オレ史上初めてのことをした。
本当に感謝しても感謝しつくせない、最高の42.195kmなのであった。
グロスタイム 3時間46分22秒
ネットタイム 3時間41分11秒
グロスで2分、ネットで5分、今までの記録を縮めることができ、来シーズンの「サブ3.5」も視野に入ってくるのであった。
(
つづく)