私と「固定ギア」の出会いは、今をさかのぼること、2年前であった。
「固定ギア」という言葉は、それまでも何回も聞いたことがあるが、「後輪がペダル駆動と直結する」という辞書的説明では、さっぱりイメージがわかず、しかも、大して興味もなかったので、深く調べることはしなかった。
そんな「固定ギア」について、ほとんど予備知識がない状態で
「ちょっと、この自転車面白いから乗ってみない?」
と、某P^^さんに言われ、乗ってみた。
もちろん、そのときは、その自転車が「固定ギア」であることを知らず、ただのシングルスピード自転車だと思っていた。
乗ってみた。
妙に乗りにくい。
右足をペダルに乗せたら、私の断りもなく、勝手にペダルが後ろに動き出し、ちょっ、これ、どうやって左足乗せるの状態であった。
それでも、まだ乗るのはいい。
問題は降りるときだ。
手でブレーキをかける。
お、おお、車輪は止まろうとしてるのに、ペダルの回転が止まらんぞ!
どうやって止まればいいんだ?
パニックになった私は、両脚を大きく開き、それでもペダルが勝手に回っていて、「何だこれ気持ち悪いぞ」と思い、どこに足をつけばいいかオロオロしたが、かろうじて転ぶことなく、電撃的に降車した。
全く、こんな自転車はタリラリランだ。
ビンディングシューズなんかよりも5億倍危険だぞ。
こんなものは、競輪のバンクだけで走っていればいい。
公道では絶対禁止だと強く思ったものだ。
しかし、そのときの「固定ギア」バイクが、何をどう勘違いしたのか、私の元にやってきたのであった。
当然、冒険を好まない、安定志向な、末は銀行員か公務員かと、将来を嘱望されている私は、「ギアは固定じゃなくてフリーにしてください」と床に頭をすりつけるようにお願いした。
そんなわけで、フリーのシングルギアバイクとして、STILO号は先週、華々しいデビューをかざったわけだが、「これでいいのか?こんな保守的なことでいいのか?銀行員や公務員よりも、もっと面白い仕事があるんじゃないか?」と一部の固定ギアユーザーにささやきかけられた。
人生一度きり、ベンチャー事業を起業するように、どーんと勝負に出ないかと。
素直な私は、あっけなく大勝負に出た。
散歩がてらに、家から7kmぐらい離れた豊富温泉に行くことにした。
早朝で、交通量は皆無に等しく、しかも、ど平坦な道と、固定にはもってこいの条件だ。
さて、乗ってみよう。
うむ、やっぱり乗りずらい。
しかし、そんなことは別にいい。
問題は止まるときだ。
手ブレーキをかけるまえに、脚を逆回転させるのだ。
お、ペダルの回転が弱まって、止まるぞ。
ここで手ブレーキをかけて、足をつけるのだ。
ふふ。
ふふふ。
固定ギア恐るるに足らず。
最初から、こういうもんだと理解していれば、大したことのない乗り物だったのだ。
あのときは、不意をつかれてどうすればいいかわからなかったのだ。
行きは向かい風。
しかし、ペダルは自分の意思とは関係なく、勝手に回ってくれるので、電動アシスト自転車のごとく、後ろから誰かに押してもらえるように進んでいく。
これはよい。
20分弱で温泉街到着。
帰りは追い風で楽チン。
超高速回転で、ペダルが回ります。
しかし、ここで油断をした。
普通の自転車に乗ってるとき下り坂で脚を止めるがごとく、つい、ペダルの回転をゆるめてしまった。
ドカドカドカドカドカ。
休もうとしている私の足の裏を、勢いよく回っているペダルがボカボカ蹴ってくる。
暴力的だ。
何と暴力的な自転車なんだ。
話せばわかる。
板垣死すとも、自由は死せず。
ブルータス、お前もか。
気に入った!
いたく気に入ったぞ!お前。
「自転車に乗ったら最後、一旦ペダルを漕いだら死ぬ覚悟でやれ。やめたら足裏ボカボカ攻撃だ」と妥協を許さない姿勢がすばらしい。
そう、自転車は真剣勝負なのだ。
一度またがると、死ぬまでペダルを回し続けなくてはいけない。
固定ギアはペダリング養成ギプスなのである。
《固定ギアまとめ》
ぺーだる、回せー、まーわせよー。
まーわさなーきゃー蹴飛ばすぞ、おーまーけーにー食いつくぞ(北海道人にしかわからないネタ)。
さようなら。